会員紹介

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尾崎都司正さん
名古屋学院大学 商学部  情報ビジネスコミュニケーション学科 教授 名古屋学院大学 大学院経済経営研究科

2009/12/22 台湾紀行文

くすのき会の皆様 しばしの間、ご無沙汰していました。年の瀬も押し迫り、新年もカウントダウンですが、こちらは、正月といっても旧正月ですから、特別な催しものはないようです。ただ、大きなクリスマスツリーは至る所で見受けられます。 前から茫洋としていたのが、チェコに行って天然資源の乏しい小国がどう活路を見出していくか。ソ連から離れて自由主義に転換したが、天然ガスの供給を受けないと国の経済が立ち行かなくなるというのを日本大使館で聞いてから、命題が明確になった。経営学を講じていることから、中小企業がどうしたら発展できるかという問題と本質的に同じだと感じて、小国台湾のIT産業に仮託して解決の糸口を見出すことを研修の目的とした。しかし、台湾で育ったIT企業は中国に進出し、自国が世界一の高齢化と空洞化が進行している状況を目にして、合成の誤謬の解決策が喫急であることを痛感した。 この国が教育・産業に投資しても、人材が中国に流出し、果実を収穫することができない状況を直視すると、企業とは何か、国とは何かを考えざるを得なくなった。企業は、ビジネスで中国に進出するのは企業行動としては正しい選択。しかし、国内活力が低下し、空洞化してゆくと、企業活動を継続し得なくなる。皆が正しい選択をして、その結果、全体として不幸な結果を招来する合成の誤謬の数値的解法を見出し、国際カンファレンスで発表したり、論文投稿したりしている。あくまでも数理の世界であり、理論的な解法を現実の社会に適用するには、台湾の意思を明示しなければならない。しかし、この国は、現政権の批判はするが、具体的な対応策を出さず、将来に対する危機感が欠如してして、私の主張に同意するのは、教授の上層部だけで、多くは無関心である。 先日、「1日本人が見た台湾の将来」と題して、MOT(Managementog Technology)学会で講演してきた。(講演のスライド参照) 香港に次いで投資額が2番目の台湾。日本企業も台湾と合弁で中国に進出する機会が増えてきている。 日系企業のマネジメントを請け負う一方、技術を流出させて中国の発展に貢献しているという皮肉な現状を打開するには、中国の市場性と労働賃金の安さの過信から脱却しないと、台湾や企業の発展は覚束ない。これは日本企業にもあてはまることである。先日、小沢幹事長の中国訪問の随行者は600人と聞き、またジャーナリズムも中国に偏重していることから抜け出るべきだと痛感した。以前、鳴き砂の研究をしていて、中華思想を調べたことがある。(“鳴砂と日本文化”参照) 「中国」は「この世界の中心」であるという意味であり、この言葉には中国人の利己的な面と、人間の意志を表明することに憚りないことも窺える。しかも、古の中国の人々は、この「人気」が移ろいやすいことも知っている。このような世界観は、長い権力闘争が繰り返される間に築かれてきたものであり、権力者は国民を信用していなくて、国民も権力者を信用していない。つまり、どちらも利己的である。 利己的な中国が今のスピードで発展していけば、資源危機、食糧危機、環境危機が起こるのは時間の問題であろう。大前研一氏は中国の発展が続くと言っているが、Made in Chinaの安い製品が世界に流布しても、消費する国はない。消費を美徳としてきたアメリカ、日本ではそれを受け入れるだけの余力はない。また、15%の成長を5年続けば、平均賃金が2倍以上になり、価格も上がる。13億ともいわれる人口も消費者にはなりえない。 台湾企業の国内回帰を促さないと、少子化に歯止めがかからないというのが私の講演の論点であった。 私の友人の名城大学の木下栄蔵教授が書いた「経済学はなぜ間違え続けるのか」という本が6月に発刊された。トヨタの張会長やリチャード・クーも彼の主張に同意していて、出版パーティには張会長も出席されたようだ。 彼はボンの学会で発表したところ、多くの人が異説を受け入れたと言っている。彼の主張は、好況な状況の経済下では、利益最大が企業行動であるが、不況下では、ロスの最小化が企業行動であることをオペレーションズリサーチの主問題・双対問題で明らかにした。ケインズ経済学は、時としてアダムスミスの正当な経済学を否定する。しかし、主問題・双対問題という明快さは経済学にはない。1つの考えでずっと貫いていることを揶揄した書籍の題名であろう。不況の時は、「官から民へ」ではなく、「民から官へ」を採るべきというのが彼の主張である。小泉・竹中路線は、不況のときに、投資をしなかったことが景気回復を遅らせたことになる。今、不況であり、国の歳入と歳出のギャップを国債発行か、あるいは一般会計と特別会計で穴埋めするのが適切だということになる。 台湾の経済政策でそれを確認するために、元台湾経済研究院院長 呉栄義(ウー・ロンイー)氏と面談機会を設定し、私も中国政策を確認する機会を得た。呉教授は、台湾の有力民間シンクタンクである台湾経済研究院の院長を務めた著名な人である。明日はアメリカ出張で所内の会議、大学での講義もキャンセルして、面談してくれた。2時間を超える面談であり、木下教授の説にも同意された。質問も鋭く、「台湾にも人がいる」ことを彷彿させる人物である。中国政策については、馬総統はクレイジーで、2012の総統には新しい人物に交代するので、心配はない。ただ、経済と政治が車の両輪となっているが、健全な経済組織体ではないとのことであり、いずれは崩壊するとみているようである。 麻生政権が補正予算で大盤振る舞いをしたにもかかわらず、なぜ日本の景気は良くならないのかと質問された。補正予算の大盤振る舞いは正しい選択である。その大盤振る舞いも選挙目当てであっり、景気を下支えするほどのものではなかったこと、公共投資での乗数効果も低く、発行した国債で得た金でまた国債を買うなどの馬鹿なことを繰り返し、政府が国民に安心感を与えるものではないため、国内需要が高まらないことを述べた。台湾の経済状況も日本と同じで公定歩合が下がり続け、手が打てない状況であるようだ。中国が200兆円、日本が120兆円を出して、アメリカ国債を買っている。金が市中に回らないのも道理で、投資先がないからである。歳入と歳出のギャップを埋める費用を捻出しても、目的と使途が定まらない。鳩山政権は、子供手当を支給するという。これは消費に向かうことになれば景気浮揚策になる。もう一つは、福祉や高齢者に使うと実効性があることは双方で合意した。 私の仕事は、中国進出は台湾の損失であることを計量的にまず算出することであり、それがどれほどの雇用を産み、国民生活に寄与するかを第1フェーズとして作業している。第2フェーズは、流出しないための方法や施策を考えだし、最後のフェーズは、政策の評価を行うことである。 ところが、台湾の産業連関は最新のものがあるが、中国のものは1990年が最新である。それも日本の経済学者が作成したものであり、中国の計量経済の学者に問い合わせると、2001年のものはあり、それを利用しているという。しかし、指定された当局の公開資料にはデータがなく、すべてアグリゲートされたものである。国連すら把握していないため、こちらにいると、データはないのが正しいという。したがって、中国の成長率もその根拠が明確でなく、政治的意図で発表されているのではないかと思われる節がある。デパート経営も丼勘定であるようだ。 第2フェーズは、私が関与できない。大学院の学生に講義して彼らの思いや認識を抽出することにした。最後のフェーズは、行政担当者から評価をしてもらい、相互の関連性を考慮した施策体系を作り上げる予定。 後、3か月余りしか滞在日数が残されていないので、データがあれば日本で計算できるので、問題はない。しかし、第1、2フェーズはとても時間が足りない。こちらの曾先生は、帰国を3カ月延ばすことができないかと打診してきた。1年間自由にさせてくたれので、大学にこれ以上迷惑はかけられないので、5月の連休などで研究の進捗を加速させようと思っている。 また、折角の機会を頂いたのに台湾の台北しか知らないのではと思い、高雄に行ってきた。アヘン戦争当時、西洋列強の進出を食い止めるための砲台が築かれたり、高雄市長室に肖像画が置かれていた。台湾のどの市でも「中山」という道路があるが、孫文の名前だとは築かなかった。孫文が1905年に発表した中国革命の基本理念である「三民主義(民族の独立、民権の伸張、民生の安定)」は、現在の台湾政府の基本理念でもあり、民族路、民権路といった主要道路も、この三民主義にちなんで名づけられているようだ。 先日、台北の西門に行った。寺の回りはホームレスがいっぱいいた。友人にむりやり蛇料理の店に案内された。スープだけ1口飲んだ。スパイスで味が解らないが口だけはつけた。入口に黄色の大きい蛇をみたら、これが精一杯の応答であった。

左)名城木下教授 中上)私 中下)開南大学 曾傑出講座教授 右)呉元経済研究院

データ収集のため台中の逢甲大学大学院で講演

高雄にある砲台跡

高雄 市長室

蛇料理

たくさんのお供え

敬虔な仏教徒